
井上 有一
YUICHI INOUE
ALMOSTBLACKが 2024年秋冬シーズンおよび2025年春夏シーズンにコラボレーションしている井上有一(1916年-1985年)は、日本国内で前衛芸術が盛り上がり始めた戦後、「書の解放」を目指した作家である。
保守的であった書道界への反発から森田子龍・江口草玄・中村木子・関谷義道と共に「書の解放」を志して「墨人会」を結成した有一は、生涯をかけて「書」の芸術形式自体を鋭く問い直していく。
有一の書に向けられた世界的な関心は、西洋中心の現代美術の大きな潮流によって方向づけられたものであった。ウィレム・デ・クーニングや、ジャクソン・ポロック、ジャン・デュビュッフェやジャン・フォートリエなどの欧米のアーティストに続く新たなヒーローを、現代美術は求めていた。そのなかで有一の「書」は発見され、国外では可読性を超えて需要されていったのである。
2024年秋冬シーズンでは、《愚徹》《花》《貧》《母》といった井上雄一の代表作である書を、服の背後など様々な箇所にダイナミックなサイズで再現。2025年春夏シーズンでは、《愛》《夢》《これでコンテもおわり》の3作品をプリントやパッチを用いて表現している。
作品の直接的な使用だけでなく、滲みや掠れといった有一の身体や力強さ、息遣いを想起させる彼の躍動の痕跡も、彼の創作における精神の表現として洋服に落とし込んでいる。